「・・・離して、銀時」

「い・や」

「銀時」


現在私は万屋銀ちゃんの玄関先に居る。
なぜなら、恋人である銀時が私の腰に抱き付いて離れない、からだ。
黙ったまま、まるで子供のように駄々をこねる銀時の頭をぽんぽんと撫でてあやす。
すると、大分落ち着いてきたのか、おずおずと私を見上げた。
まるで、捨てられた子犬のように。


「・・・だって、離したら行っちまうんだろ?」

「仕事なんだからしょうがないでしょう?我儘言わないで」

「ンな仕事辞めちまえよ」

「・・・銀時」


普段は、決してこんなことは言わない。
そのあまりにしおらしいその言葉に思わず頷いてしまいそうになるが、私も生活が懸かっているのだ。
仕事を休むことなど出来ない。
銀時も、それは十分承知のはずなのだが。

ふう、と溜息を吐くと、銀時と同じ目線まで屈む。
綿菓子のようなふわふわの髪をそっと梳くと、銀時は私の顔をじっと見つめていた。
銀時が何か言いかけたが、その前に自分の唇で塞いでしまったので聞こえなかった。
軽く、触れるだけだった。
それでも、私の鼓動を高鳴らせるのには十分で、それを悟られぬよう、すぐ離れた。


「帰ったら、続き・・・ね?」


そう言うと銀時はぽかんと口を開け間抜けな顔をしていたが、すぐにふにゃっと締まりのない顔になった。
あぁ、そう言えば私からキスをするのは初めてだったかもしれない。
銀時が愛しくて、もう一度、今度は頬にキスをした。




不器用な人間の精一杯



090220