分かっていたのに。
分かっているのに。

それでも、身体は確かにあいつを欲してして。
水を求める魚のように、私はだらしなく口を開き、ただ、その先に待つ快楽を求めた。

今朝からずっと続いていた頭痛が一層酷くなった気がするが、気のせいだと自分に言い聞かせ、行為に没頭する。
焼けるように熱い結合部から出る卑猥な音が、空っぽの脳に、心に、部屋に、虚しく響く。
荒い息遣いも、肌と肌がぶつかり合う音も、もう全てがどうでも良くて。
与えられるがままにその激しいまでの愛撫を受け、このままどうにかなってしまえば良いのにと、最中だというのに私はどこか上の空だった。
乱暴な愛撫にでさえ感じている私に気を良くしたのか、腰の動きが速まった。
ただただ喘ぐ私を満足そうに見つめ、奥へ奥へと進んでいく。


「とうし、ろっ・・・」

・・・」


生理的なものか、自分でも何なのか良く分からない涙が溢れ、頬を伝う。
それを十四郎が丁寧に舐め取る。
その熱い舌にゾクリとしたが、私には止める術がない。
熱にうなされたように、うわ言のように名前を呼び続ける私に、十四郎は優しい口付けをくれた。

快感に歪んだ顔が酷く艶めいていて、私は必死にその唇を貪る。
口内に充満する、煙草の味。
サラサラと流れるような黒髪を梳き、もっと欲しいと強請る。
それに応えるように、逞しい腕が、私を抱き締める。
その感覚に、一瞬だが懐かしいものを感じ、妙な安心感を覚えてしまった。
でも、今、目の前に居るのは、高杉じゃない。


「ぅ・・だ・・・」

「あァ?」

「しんだ、なん、て、うそだ」

「・・・・・・」


嘘だ嘘だ嘘だ。
この涙もひどい虚無感も、全部全部、嘘だって言って。





リアリティを脳が拒絶する



080129