その部屋は真っ白だった。 まるでこの世の終わりのような、何もない白。 自分がいかに汚れているかを思い知らされるような、そんな白だった。 部屋には私一人きりで、他に何もない。 がらんとしたその空間に、ぽつんと私だけがある。 無気力な私の体は重力に負けて、だらしなく横たわっている。 腕も足も力なく投げ出されているが、それを咎める者はここには誰も居ない。 ぼんやりと、もやがかかったように、さっきからあることがどうしても思い出せない。 上手く機能しない頭でのろのろと考える。 何故、私はここに居るのか。 あぁ、大事な部分が見えない。 何を、忘れているのか。 私は、逃げ出したかった。 ひどく残酷な世界から。 求めても絶対に手に入らないということを知ってしまった。 もう何もしたくなかった。 何も考えたくなんてなかった。 このまま、消えてしまえたら良いのに、と思った。 あとどれくらい逃げたら振り切れるんだろうか。 最初から手に入るなんてそんな大層なことは思いもしなかったし、そのつもりもなかった。 私はただ、遠くからじっとあの眩い蜂蜜色を眺めていられればそれで良かったのに。 欲が、出たのだ。 見ているだけでは物足りなくて、でもいざ話すと歯痒い。 それでも、初めて名前を呼んでもらえた時は飛び上がりたくなるくらいに嬉しかった。 あの人の優しい声が私の名前を呼ぶ度に、私はまるで魔法に掛かったように幸せな気分になれた。 たとえそれが一時、でも。 曖昧で心地よいその関係にすっかり私はまどろんで、安心しきっていたんだ。 けれど、ある日それは急に終わってしまった。 頭から氷水を掛けられた、そんな感覚だった。 こんな時に限ってやけに頭が冴えてくる自分が憎らしかった。 この人が見ているのは、私じゃない。 その視線の先に気付いてしまうと、私はもう、その場に居られなかった。 後ろから呼び止める声が聞こえたけど、聞こえない振りをして走り続けた。 悔しくて悔しくて、涙が出た。 私はきっと、ひどく醜い顔をしていたんだろう。 でもそんなことが気にならないくらい、私は苦しくて堪らなかった。 初めから分かっていたのに、それでも、胸が痛い。 この部屋はとても寒い。 とてもとても寒い、はずなのに。 何故だか無性に、頬が、熱かった。 「馬鹿だね、は」 「うん」 「そしてとても愚かだ」 「・・・恭弥も、ね」 きっと恭弥の心も私と同じくらいに軋んでぐちゃぐちゃで、痛いんだ。 だけどいつもと同じ、冷たい顔をしていた。 ううん、違う。 痛すぎて、感覚が麻痺しちゃって、もうその顔しか出来ないんだ。 だから、恭弥の分も私が泣いてあげるって言ったら、はどうしようもない馬鹿だねって言われた。 うん、知ってるよ。 僕等はとんでもない愚か者だ。 それでも、 |