呆れた。 折角仕事が早く片付いたから、が愛して止まないケーキを買って来てあげたのに。 それなのに、彼女は寝ているのだ。 それはもう気持ち良さそうに。 そういえば、は暇さえあれば寝ている気がする。 病気だろうか。 頭の方も具合が悪いようだから、この機会に医者に診てもらった方が良いかもしれない。 ふいに、もう目覚めないかもしれないという不安に襲われた。 何故、そんなことを思ったのか自分でも分からない。 彼女は、微動だにせず静かに眠っている。 胸の上下がなければ、生きているのか死んでいるのか分からない。 彼女を失うかもしれないという恐怖。 それは自分にとって全く未知のものであった。 「ねぇ、起きなよ」 そう言って彼女の体を揺する。 あぁ、この体はなんて頼りなく細いんだろう。 ちょっと前までは、自分とさほど変わらないと思っていたのに。 いつの間にか僕は男で、は女になっていたのだ。 そんなことは分かりきっていたことだけど。 それより、こんな力を込めれば折れてしまいそうな体で自分と同じように任務に就いていたということに、正直驚きを隠せなかった。 は嫌がるだろうけど、明日にでも綱吉に言って内勤にさせなくてはと考えていた。 それにしても、起きない。 「」 「・・・」 「」 「ん・・・」 の口から少し擦れた声が漏れると、次に眉を寄せて不機嫌そうに顔を歪ませた。 まだ眠いのか、重い瞼がゆるゆると開いた。 生きてた。 何度かパチパチ目を動かすと、やっとその瞳は僕を映してくれた。 「・・・おはよう」 「ケーキ買って来たよ」 「・・・うん、食べる」 「そう。じゃあさっさと起きなよ」 「んー・・・」 返事を返すものの、はまたうとうとし始めた。 この様子だと、にお茶の用意を任せるのは無理だろう。 やれやれと腰を上げようとした時スーツの裾を引っ張られ、思いのほか強い力にバランスを崩しベッドに倒れこんだ。 事の元凶である人物に抗議をしようと顔を上げると、首に何かが巻きついてきた。 「何だい?」 「・・・おはようの、ちゅーは?」 一瞬、言われた意味が分からず思考が停止してしまったが、すぐにまた活動を再開させる。 ダメだ、寝惚けてる。 は(僕もだけど)、普段こういった類のことは絶対に言わない。 その彼女の口からこんなことを言われ、流石の僕も動揺してしまった。 沈黙している僕に気を悪くしたのか、は腕の力を強め僕の顔をじっと見つめた。 「きょーや・・・早く」 「本当に、仕方のない子だね」 軽く触れるだけのキスをしてやると、は嬉しそうにくしゃりと顔を歪めた。 それを見たら、何とも言えないある感情がぐるぐると僕の中に渦巻くのが分かった。 この衝動をどうしてやり過ごしてやろうと思っていたところに、あろうことか、もっと、と強請ってきた。 ・・・うん、僕は一切悪くないから。 反論は許さないよ。 折角今日はゆっくりしようと思ったのに、全部が悪いんだからね。 数時間後に予想されるの言動が容易に浮かび、自然と口元が緩んだ。 起きたばかりのの体は、再びベッドに沈んでいった。 |