酔って、忘れてしまえたらいいいのに、と思った。
だけど、酒に酔うなんて、そんな可愛げは私には皆無だ。
強いことは、良いことだとは思うけれど。
飲んで、全てを忘れられたらどんなに良いだろう。
また一口と、ワインのなみなみ入ったグラスに口を付ける。
グラスに満たされたその赤が、まるで血のようだとぼんやり思った。
血。
それは、あの男を彷彿とさせる。
ふとボトルに目をやると、もう残りがあと僅かであった。
あぁ、これももうすぐお終い。
残りをグラスに注ぐと、空のボトルを足元に投げた。
床には、無数の空のボトルが転がっている。

生死不明。

そのことを聞いた時、死んでしまいそうだった。
それと同時に、意味が分からなかった。
こんなに動揺している、自分に。
あの骸が、死んだ?
そんなのあり得ない。
殺しても死なないあの男が、まさか。
良からぬ妄想が頭をぐるぐると駆け巡る。

もう何本目になるか分からないワインを開けるべく、ナイフでキャップを切り付ける。
それからきれいにキャップシールを取り外し、コルクの真ん中にスクリューを突き立てる。
くるくると回して深く刺さったのが分かると、ボトルの口にオープナーの両の羽を引っ掛け、そのまま引き上げる。
底が赤く染まったコルクを抜くと、この銘柄特有の深みのある香りが広がった。
そこまでやって、ふう、と息を吐いた。
今は電動の便利なものが売っているのだが、私はどうしてもあれを使う気にはなれない。
一連の動作を終え、随分と慣れたものだなと我ながら感心してしまう。
初めは開けてもらう側だった。
それが、一人でも飲めるようにと骸に教え込まれたのだ。
彼が器用に道具を扱い意図も簡単に開けてしまうのを、私はまるで魔法のようだと思いながら見ていた。
また、そうやってる時の彼が好きだった。
あぁ、また私は思い出している。
忘れないと、いけないのに。


「・・・骸のばかやろう」

「馬鹿で悪かったですね」


その声を聞いた時、私はついに泣き出していた。
はっと後ろを振り返ると、その男は立っていた。
いくらか疲れているように見えるが、それでも、目の前に立っているのだ。
彼が一歩、また一歩と近寄る度に、何故だか私の鼓動も速くなった。
酔って、いるのだろうか。
目の前に居る骸の頬にそっと手を伸ばすと、確かにそれは温かかく夢でないことを知る。
生きていた。
そう思った瞬間、私は力いっぱい抱きついていた。


「おやおや、今日のは随分積極的ですねぇ」

「・・・酔ってる、だけなんだからね」

「クフフ・・・そういうことに、しておきましょう」


いつもなら、今までどこで何をしていたんだと真っ先にぶん殴っていた。
だけど今日は、体が勝手に動いたのだ。
私は普段、絶対にこんなことはしない。
それが何となく気恥ずかしくて、骸の胸に顔を埋めた。
私の知っている骸の香りがして、また涙が溢れ出してきた。
そんな私に骸は、すみませんと一言謝った。
すみませんじゃ済まないよこの馬鹿。
どれだけ心配させれば気が済むの。
言いたいことはいっぱいあったのだけれど、上手く言葉が出てこない。
だから、今はこれだけにしておこう。


「・・・おかえり」

「ただいま、





放蕩の死


090404