先日、取引先の会社から苺を一箱頂いた。
陸奥と自分だけでは、とても食べ切れそうにない。
そんな時、ふとある女の顔が脳裏に浮かんだ。
次に、どうやってこんな歪んだ性格が形成されてしまったんだろうと思ってしまうくらいに凶悪な、悪友の顔も。
まさか、あの2人がくっつくなんて思ってもみなかった。
あんなにぶつかり合っていた、2人が。
どうせ今も口論でもしでかしているんだろう、その様があまりにも容易に想像が出来る自分に思わず苦笑してしまった。
そこまで考えて、さて最近会っていない昔馴染みは一体どうしているだろうかと思い、苺を手土産に訪ねることにした。

久し振りにあったは相変わらず不健康そうなものの、それでも、自分の記憶に残る彼女からしたら幾分か顔色が良いようだった。
冷蔵庫の中は相変わらずスカスカではあったが、以前に比べたら食料が入っている。
酷い時には、ミネラルウォーターしか入っていない時もあったのだから。

早速持って来た苺を洗ってやり目の前に差し出すと、まるで子供のようにキラキラと目を輝かせていた。
そして嬉しそうにふわりと笑うと、「いただきます」と言って口に運んだ。
人が食べているところを見ると言うのは中々に失礼なことなのかもしれないが、苺を頬張るの顔が、あまりにも幼くて、幸せそうで、つられて自分の頬が緩むのが分かった。
が頬張る度に、苺の甘酸っぱい香りが漂った。
そう言えば、食についてほとんどと言って良いほど無関心ながこんなに美味しそうに食べているのをみるのは、初めてかもしれない。


「なんじゃーおんし、苺好きじゃったんか?」

「うん。果物は割りと好き」


この苺美味しいね、とまた一つ頬張る。
その度に、何故だか不思議な気分になった。
胸の奥がもやもやするような、むず痒いような、そんな感覚。
けれど今は、の笑顔に意識が集中していてそれを気に留めることもなかった。

は、綺麗になった。
それほど歳が離れているわけではないが、は妹的な存在だった(今も、だが)。
ひどく不安定なを、自分が守ってやらなければならないと思っていた。
だが、もうその役目は終わってしまったようだ。
あの、(かなりどころでは、なく)目付きと性格の悪い昔馴染みが、可愛い妹を掻っ攫っていってしまったのだ。
自分としてはもの凄く不安なのだが、があの男を選んだのなら、仕方がない。
何だかんだ言って、あの男が普段の言動ほど悪い人間ではないということを、自分ももよく承知しているのだから。


「辰馬」

「お?もう全部食べやまったがか?」

「(やまった・・・?)うん、いや、そうじゃなくて」

「・・・?」

「有難う、ね」


少し照れくさそうに笑うを思わず抱き締めてしまいたい衝動に駆られて、いや待て、これは妹だ、いやでも、抱き締めるくらいは普通なのか、でもそれ以前に、あの高杉の・・・そんな葛藤をすること数秒。
色んな感情が複雑に絡みついて、何て返したら良いか分からなくなってので、とりあえずの頭を撫でた。
は初めきょとりとしていたが、気持ち良さそうに目を細めた。
その様が猫そのものであると思ったと同時に、あぁ、やはり、認めたくはないが高杉に似ていると、感じた。
おそらく、だから高杉の側に居るのはでなければならなかったのだろう、と理解する。
そんなことは、今更であるけれど。


「高杉の奴に泣かされたらすっと言うぜよ。いつでもぶっ飛ばしてやるきに」

「・・・?うん、分かった」

「また苺持って来ちゃー」

「うん、陸奥ちゃんによろしくね」

「アッハッハ。今度は陸奥も連れて来るやき!」

「うん。仕事、無理しないでね?」

「おんしも、身体に気を付けるぜよ」


そう言って再びの頭を一撫でし、部屋を後にした。

後日、勝手に会社を抜け出したのがバレて陸奥にしばかれる黒いモジャモジャが、居たとか、居なかったとか。





極彩色の感情


090403