さびしい心臓は

    口をひらいた





今日はこの歳になるともうあまり嬉しくもない、何回目かの私の誕生日(何回目かなんて忘れたけど、もうそろそろいい歳、かもしれない)。
誕生日だからといって普段と特に変わったこともないが、強いて言うならば、数日前からあの傍若無人な同居人が、未だ帰って来ない。
同居人・・・と言っても常にふらふらしている奴なのだが、その男は高杉晋助と言って、過激派テロで指名手配犯だ。
まぁ、そんな危険な奴は居ない方が私の平穏な生活のためなんだけれでも。

それにしても、無駄に広い部屋に一人きりというのも、中々寂しい。
毎年、誕生日は何故だか昔馴染みが勝手に集まり勝手に祝って帰って行く、といったかんじなのだが、今年はいやに静かだ。
それというのも、今目の前に居るのは昔馴染みの一人である、銀時ただ一人、なのだから。
彼は全身から甘ったるい匂いを放ち、「ケーキ作って来た」と満面の笑みで言うと家に上がり込んで来た。
銀時の話しによると、小太郎と辰馬はどうしても外せない用があるだとかで、プレゼントだけでも・・・と銀時に預けて行ったらしい。
忙しいなら、別にプレゼントなんて要らないのに。
私だってもう、プレゼントがないと気落ちするような歳じゃあないのだから。

銀時の持って来たケーキに視線を移す。
とても素人が作ったとは思えない、私好みの、甘さ控え目な苺のケーキだ。
甘いものに関しては、きっと私の人生で銀時の右に出るものは、居ないだろう。
その情熱を、もっと他のところに向けられたら良いのに、と時折思いもするが、そこが彼の魅力なのだと納得する。

目の前には、プロ顔負けのケーキと、銀時と、プレゼントの山。


「銀時」

「んー?」

「なんで」

「え?」

「なんで、あいつここに居ないの」

・・・」

「なんで帰って来ないの」

「・・・・・・」


私は一体何を言ってるんだろうだとか、何でこんなこと銀時に言ってるんだろうとか、あーケーキ美味しそうだなぁとか色々思うけど、足りないんだ、何かが。決定的に。
自分の為に作られた誕生日ケーキよりも、プレゼントよりも、私はあいつが良い。


「誕生日プレゼントなんかいらないからさ、あいつ、今すぐここに持って来て」

「なんか、だって寒いし、痛いし」

「この部屋、やたら寒いよ」


朝から感じていた違和感は、これだったのか、と溜息を一つ吐いた。
大体、何なの、あいつ。
今日は私の誕生日なのに、なんでこんなに振り回されなきゃなんないの。
高杉のくせに。


「高杉のくせに・・・」

「そいつは、ひでー言われようだなァ、?」


あぁ、この匂いだ、と脳が理解するより先に、私は高杉の腕の中に居た。
銀時とは違う、高杉特有の匂い。
胸クソ悪い、まるで毒のような甘ったるい匂いだが、嫌いでは、ない。
この匂いで安心感を覚えてしまうのだから、私もどうしようもない女だ、まったく。


「高杉」

「あ?」

「遅いよ」

「あァ・・・」

「晋助」

「・・・んだよ」

「・・・おかえり」


プレゼントは、と強請ったら、何の恥じらいもなく(高杉に恥じられても困るのだけど)「俺」とかぬかしたのでどうしてくれようかと思ったけど、そうこうしている内に着々と目の前の男は服を脱がせていくので、もうどうにでもなれと、その首に腕を絡めた。
いや、でもこれ絶対おかしい。
だって、私の誕生日なのに何で高杉が良い思いしてるの。
まぁでも、ひとまずは高杉が居るから良いか、と自己完結する。
溜息を一つ吐くと、高杉がにやりと笑っていたので、仕返しとばかりにその形の良い唇に噛み付いてやった。
あぁもう、こんな男に惚れてるなんて、私は本当に重症だ。

散々高杉を頂いて、もう当分プレゼントなんて要らないと思った、何回目かの誕生日。


これは後日談だが、どうやら今回のことは全て高杉が仕組んでいたらしく(まんまとハメられた自分が憎い)、「2人きりになりたかっただなんて中々可愛い奴ではないか」とか小太郎が言ってたけど、いや、多分それ絶対違う。

いや、全く気の毒だよ。
誰がって、主に銀時が・・・。




090407